22q11.2欠失症候群

22q11.2欠失症候群(2015年より国の指定難病203)は、ヒトに23対46本ある染色体の22対目の片方の一部(長腕11.2領域)が欠失することによって定義づけられる、染色体起因疾患です。起こり得る合併症は約180あると言われていますが、症状には個人差があり、全ての症状が一人の人に出るわけではありません。心血管異常・特有の顔貌・胸腺低形成・口蓋裂・低カルシウム血症などを併存し、出生直後から先天性心疾患や口蓋裂などに対する手術を要することが多いです。こうした身体疾患・身体障害に加えて、軽度の知的障害や発達障害を併存することが多く、加えて、思春期以降に統合失調症様の精神病症状や不安などの精神症状を発症することが少なくないことが近年明らかになってきています。

このように、22q11.2欠失症候群をもつ人は多様な疾患を複合的に有することが多いですが、その症状や重症度は個人差が非常に大きく、多様性に富み、医療的ケアを必要とする人もいれば、通院せずに日常生活を送ることができる人もいます。そのため、従来はいくつかの異なる症候群として発見されてきたという経緯があります。1991年にFluorescence in situ hybridization(FISH)法という新しい染色体解析技術が確立されてからは、血液検査で欠失部位の有無を診断できるようになり、22q11.2欠失症候群と総称されるようになりました。

遺伝子に異常があることによる疾患ではありますが、孤発性が90%以上です。つまり、両親は遺伝子異常も症状も全くもたないが、産まれてきた子供の遺伝子に異常があることによって生じることのほうが多い疾患です。22q11.2欠失症候群の有病率は、4千〜1万5千人に1人と報告によって幅があり、未診断のまま経過している22q11.2欠失をもつ人が非常に多いということが推測されます。

22q11.2欠失症候群をもつ方の人生軸に沿った生活上の困難

周産期・小児医療の発展による生命予後の改善により、children with special health care needs(C-SHCN)、すなわち慢性疾患を持ち一般の小児に比べて医療サービスをより多く必要とする「医療的ケア児」が、思春期・成人期を迎えることが可能になってきました。それに伴い、医療的ケア児が思春期・若年成人(AYA世代; adolescent and young adults)に向かうにあたっての、小児期医療から個々の患者に相応しい成人期医療へのシームレスな移行(トランジション)の重要性が高まっています。

医療に限らず、福祉や教育においても、本人の成長と共に「大人」として自らの人生や受けるサービスを主体的に選択していけるような成長促進的な関わりや、他者との関わりのための「居場所」が必要です。しかしながら、既存の支援の仕組みは依然として小児と大人の間で分断されており、病を抱える子どもたちが身体的・精神的な成長を遂げていく過程を連続的に支える体制は不十分です。

22q11.2欠失症候群は幼少期より先天性心疾患をはじめとした身体障害や知的障害を有し、さらに思春期以降に精神症状を伴うことも少なくありません。身体・精神・知的の3障害が、それぞれ軽症から重症まで個体差を持って重複することが生きづらさを強めています。支援ニーズの多様性に対して、身体・知的・精神の3障害に合わせて作られた既存の定型的な支援の枠組みでは不十分であり、身体症状や精神症状の重さを理由に受け入れを断られてしまうことが多く、居場所感を得られずにいることが少なくありません。

このように、22q11.2欠失症候群の本人とその家族が抱える生活上の困難は深刻かつ、人生の時間軸の上で多様性を帯びていくため、個別化された包括的な支援体制が必須ですが、成長・発達段階に応じた心理社会的支援及び適切なトランジションの指針となる研究が圧倒的に不足しています。

22q11.2欠失症候群を持つ方の生活・人生の統合的支援

そこで、22q11.2欠失症候群をもつ人の身体・知的・精神機能と生活・人生の視点からの様々な困難やニーズを調査し、ご本人とご家族の主体的人生とWell-beingを支援するためのガイドラインを、日本の保健医療福祉の現場で実現可能な形で提案することが緊急の課題と考えております。

さらに、複合的な障害を抱えた医療的ケア児がAYA世代をむかえていく中で、身体・知的・精神の3障害の縦割りの支援構造の中で支援のはざまにおちやすい現状に対して、22q11.2欠失症候群をモデルと位置づけ、その支援ガイドラインを他の疾患・難病にも汎用可能なものへと敷衍することも重要であると考えております。